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DX Here&Now情報通信白書に見る、日本企業の現状と課題。

DX推進に密接に関わる、情報の効率的な共有やコミュニケーション、データ処理から業務の自動化などの情報通信技術(ICT)。その日本における現状が、7月に総務省から刊行された「令和5年度版・情報通信白書」で明らかに。注目すべきポイントや日本企業が抱える課題を、総務省情報通信経済室長の小熊美紀さんに伺いました。

──今年度の「情報通信白書」で注目したポイントは何でしょうか?

「健全、強靭なデータ流通社会の実現に向けて」が特集のテーマです。今、ビッグデータを始めとする様々なデータが国際競争力のまさに源になる時代となり、我が国を含めた各国が力を入れています。そうしたデータ戦略について注目しました。
その1つがデータを巡る課題です。大手テクノロジー企業に収集・蓄積されたデータが透明性や公正性を持って取り扱いされているのかが懸念されています。これはDXを推進しようとする企業にとっても重要な視点だと考えます。

──企業はどのように受け止めるべきですか。

 データの扱い方について、今一度改めるべきでしょう。個人情報の活用方法についても、デジタル化への不安感・抵抗感を解消すべきだと考えます。
例えば、テレワークが場所や時間にとらわれない働き方の実現が推進できたように、企業はAIやメタバースなどの活用により、より生活の利便性の向上や経済活性化を進めるべきですが、その中でよりデータ利活用するためのリテラシーを企業側も身につけることが重要となります。

企業間格差と
デジタル人材不足

──日本企業が抱える課題には何がありますか?

 企業別に見ると、大企業ではデジタル化が進んでいますが、中小企業との差が大きく開いています。また、日本国内の40%の企業がICTを必要としていないというデータも出ています。必要なのかがわからないから、これから先も必要がないと判断しているのでしょうか。これは注目すべき点ですね。
そしてもう1つ、日本企業の課題として、毎年状況が変わらないのが人材不足です。企業アンケートでも大きな課題という結果が出ています。少子高齢化という背景もありますが、諸外国と比べるとAIやデータの分析家などもかなり少ないという現状があります。なぜ日本企業のデジタル人材の開発・育成対応が遅れているのか。ものづくりに注力してきたという点もあるのでしょうが、日本企業にはデジタルは内製化ではなく、外注化すべきという意識が強かったのかもしれません。
また企業への質問では、デジタル化推進に向けての取り組みの主目的を、業務プロセスの省力化と捉えている傾向も出ています。本来のDXの目指すところは、新規ビジネスの創出やサービスの付加価値です。
白書のデータを、現状の業務改善だけでなく、各企業をさらに発展させるために役立たせていただければ幸いです。

※1 (白書より一部抜粋)総務省では、2023年度より先端的なICTの創出・活用による次世代の産業の育成のため、官民の役割分担の下、芽出しの研究開発から事業化までの一気通貫での支援を行う「スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業」を実施予定

TOPICS

諸外国との比較で日本企業の現在位置が浮き彫りに

企業のデータは「令和5年度版・情報通信白書」の第4章第11節に「企業活動における利活用の動向」という項目でまとめられている。
まず注目すべきは資料①「デジタル化の実施状況(各国比較)」。諸外国との差が非常に大きいことが見て取れる(米国・中国と、西欧では経済規模が類似しているドイツが調査対象)。

 日本企業は過半数がデジタル化への取り組みそのものが未実施。さらに全体の40%が今後もデジタル化の予定がない、と答えている。企業規模で見るとさらに顕著で、大企業では約25%に止まるデジタル化未実施が、中小企業では70%を超えている。
具体的な取り組み内容が資料②「デジタル化推進に向けて取り組んでいる事項(各国比較)」だ。

 日本企業は「新規ビジネス創出」や「顧客体験の創造・向上」「高付加価値化」が低い一方で、「業務プロセスの改善・改革」や「業務の省力化」が高い水準となっている。その取り組みが、企業にどういう結果をもたらしているかという自己評価が「業務プロセスの改善・改革におけるデジタル化の効果」(資料③URL内の「32」参照)だ。
日本が自己評価の高い取り組み事項においてさえも、諸外国と比較するとその効果を評価する日本企業が少ないことがわかる。これは他の取り組み事項への評価でも同様で、白書には「日本では各観点に共通して『期待以上』の回答が最も少なく、『期待する効果を得られていない』との回答は4か国の中で最も多い」とある。
これらの諸外国との乖離を生み出す背景として、自らの課題をどう捉えているかが「デジタル化推進における課題(各国比較)」(資料④URL内の「35」参照)だ。数多くある課題の中で深刻なのが人材不足である。白書では「日本企業は『人材不足(41.7%)』の回答が(中略)非常に多く、次いで『デジタル技術の知識・リテラシー不足(30.7%)』と、(中略)人材に関する課題・障壁が多い」「我が国では外部ベンダーへの依存度が高く、ユーザー企業では組織内でICT人材の育成・確保ができていないと考えられる」と報告されている。
調査の結果から見えてくる日本企業の課題は多い。白書の内容をどう自社に活かすかが問われている。(DX TODAY編集部)

資料③ 業務プロセスの改善・改革におけるデジタル化の効果
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/html/datashu.html#f00307(URL内「32」参照)

資料④ デジタル化推進における課題(各国評価)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/html/datashu.html#f00312(URL内「35」参照)

(出典)総務省(2023)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究

「令和5年度版・情報通信白書」
情報通信行政、情報通信に対する理解促進を目的に1973年から毎年刊行。総務省
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/

PROFILE
小熊美紀さんMiki Oguma
総務省 情報流通行政局 情報通信政策課
情報通信経済室長

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