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DX FrontLineIHIのDXによるビジネス改革はデータの一元化から始まる

航空・宇宙・防衛事業領域 トランスフォーメーションセンター デジタルトランスフォーメーション推進部部長 呉 宏堯さん

航空・宇宙・防衛・事業領域でスマートファクトリーに着手したのは2016年のことです。2020年にいわゆる本格的なデジタルトランスフォーメーションへと踏み出したのですが、その最大の理由は社内資料の作成に時間がかかり過ぎていたことでした。データの保管場所が分散されているばかりか、そのデータもExcelがあれば手書きのものもある。もちろん保存形式などバラバラです。前月の在庫や業績などの情報を整理し、資料化するのに1カ月を要してしまう。
その資料作成の手順は、一次データを基幹システムからCSVファイルで取り出し→Excelに入力→パワーポイントに貼り付け→共有フォルダに保存→メール連絡→印刷、という流れでした。Excelデータを順々に渡すことから“Excelバケツリレー”と呼んでいます。
このように資料作成に時間を要し、重要な幹部との検討会の対策が後手に回るなどしていたため、データ収集にかかる時間や手間をゼロにするデータウェアハウスの整備と、BIツールの活用に着手したのです。
「BIツール導入」という施策はよく行われていると思いますが、かといって、その内容を社内にあまねく伝えるのは容易ではありません。私が最初に取り組んだのは、何よりわかりやすい言葉で伝えることです。加えて強制的にではなく、気がつくと使っていた、という流れになったらいいなと。そこで「脱Excel」をスローガンに掲げました。“Excelバケツリレー”をやめませんか、ということです。
また、「Excelをやめてください」と一方的に切り出すのではなく、「Excelをやめたらどうなりますか?」と聞くようにしました。すると、現場が必要としていることを引き出しやすくなったのです。興味を持ってくれた人には、BIツールで希望するポータルをこちらで作って提供しました。そこでの順番は、手を挙げた人から進める早い者勝ちでした。これが私たちの「ポータル化活動」の始まりです。社員が同じ一次データを使って仕事ができる、データを一元化した基盤、ポータルサイトを作ろうと。イメージしたのは検索サイトを見る感覚で使えるポータルサイトです。同時に、必要なものは1カ所に何でも揃っている便利なコンビニのような存在です。
初めに構築したのは、調達者向けのサイトでした。1つの部品番号を指定すると別々のシステムからデータを検索し、計算して、将来の在庫情報の表示を可能にしました。それができるととても便利で、しかも初めての人でも数日あれば最初のポータルを作成できるという手軽さもあって、これを皮切りに工場や設計、財務など、ほぼ全業務で使い始めました。ここで「脱Excel」から「同じデータを見る」という目的がひとまず、達成されました。

プロセスを徹底的にばらし
データを細部まで揃える

 ポータル化によってデータ収集の時間がゼロに近づき、誰もが楽になると思いましたが、実際はそうはなりませんでした。データの見せ方や、そもそもの一次データの作り方が統一されていなかったからです。
例えば残業のグラフにしても、部署によって縦軸と横軸で示されている内容やグラフの形式、色が違う。内容自体は同じでも、見せ方が異なっていると、2つ以上のグラフを比較する際はとても見づらくわかりにくいものです。また、データを突き合わせてみると、同じ1日単位でも数字が連動しないことがありました。調べてみると、データ集計の時間軸が異なっていたのです。他にも数字の欠損や、そもそものデータが違っている、といったこともありました。
データを見える化しても、その見え方が異なっていたり単位や数値が違っていては、その価値は半減しています。そこで次の目標を「データの見方を揃える」ことにしました。
まず、見方を揃えることについては、複数の工場間の担当者に話し合って決めてもらいました。一方的に押しつけるとうまくいかないものですが、ベストな方法をみなさんで選んで頂くことで解決できました。
次に、一次データの精度を上げるために、最初のデータが作られる工程や業務プロセスそのものを変えることにしました。そのための手段が「プロセスばらし」です。通常は“プロセスのムダをなくす”ことが目的ですが、弊社は“プロセスの共通化”を重視しました。単に部門や書類のやりとりだけでなく、書類に書かれた内容、すなわちデータ項目そのものにまで分解範囲を広げていったのです。実をいうと、深掘りし過ぎると収集がつかなくなるのではないかという懸念もありました。ところが詳細に見ることで共通化の糸口が見えたのです。結果的に一次データの種類や業務プロセスのパターンを減らせる見通しが出てきました。

DXを進めるためには
コミュニケーション力が必須

 このようなDXを遂行するには、ひとつの部門内だけでは限界があり、部門、事業部、工場をまたいで業務プロセスの共通化を図る必要があります。そのためには、どの部門にも属さず、客観的かつ円滑にコミュニケーションが取れる、DX専門の部署が求められるわけです。
私は今、デジタルトランスフォーメーション推進部に所属していますが、もともとは宇宙関係で設計工学に長年携わっていました。その後、新設の部署を4つくらい経験してきたのですが、元々はITやデジタルの専門家ではありません。私が所属していた設計の現場は職人的なアナログな世界。改革をデジタル知識で理詰めされるよりも、人とのコミュニケーションが大切だと感じています。今、その経験を活かしていますし、様々な部署で培ったコミュニケーション力も役立っています。つまりDXはデジタルといえど、それを繋いでいくのは結局、“人”なのです。
「プロセスばらし」により、DXの進め方が必然的に変わりました。目先の手間を減らすのではなく、データドリブンになるために何を変えればよいかを話し合えるようになりました。私たちのプロセスばらしが進んだのは、とくに私たちの領域の意識が高いとか、DX部門にイニシアチブがあるわけではありません。現場の方々が部門を超えて改善したいと思っていたことをDX部門が汲み取り、現場と話し合いながら一緒に取り組むことができた結果だと思います。
仕事のやり方が揃うことで、今後、プロセスの根本改革と基幹システムの統廃合が進んでいくでしょう。
IHIはまだ誰もが作っていないものを創造し、開発する会社です。そのために試行錯誤を繰り返し、日々、様々なチャレンジをしています。DXにおいても同様に、現場の進化に合わせてステップを変え、ビジネス変革を進めていくことが目標になるかと思います。

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