アジャイルと聞くとプロダクトの開発手法を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし横河デジタルでは、FY24において経営会議にもアジャイルを取り入れました。「変化の激しい時代には、いかに計画を変えられるかが大事」と考える鹿子木が語ります。

意思決定が早く・軽くなるアジャイル経営
横河デジタルでは、FY24の経営会議体にアジャイル的手法を取り入れました。経営ミーティングやそのアクション・アウトプット(月報等)をスクラムで回すことにしたのです。
スクラムとはアジャイル開発のフレームワークのひとつです。短い期間(スプリント)で開発検討を繰り返し、より早く、価値の高いプロダクトを共同で作る方法をさします。
参加者は毎週行われる会議で進捗や課題を共有し、開発プロジェクトを進めるときのように経営議題に取り組んできました。
スクラムを導入する前、月1回の経営会議では、各部門からの報告が粛々と行われていました。計画より遅れている工程に関しては、その場その場で最善と思われる経営判断をしていました。いわゆる、PDCA型の経営だったと感じます。
月に1回の経営会議の弱さは、どうしても報告に終始しがちなところです。期限が迫る課題に対しては、場当たり的な判断をしなくてはならないシーンもありました。
そこでスクラムを導入することで、その流れを変化させようとしました。

スクラムは、小さなプランニングが1~2週の短期スプリントで走っているイメージです。
具体的には、まず年初に全体の方針とマイルストーンを立てます。そして、各月の1週目の金曜日に進捗会議、翌週の金曜日には計画会議と、1週間ごとに会議を繰り返します。
計画に基づいて作成されたアクションリストがあり、それらを表計算ソフトのバックログリスト(未処理のタスクや残りの作業を一覧にしたリスト)で管理しました。遠い未来のバックログは粗く、近い未来のバックログほど具体的になっていきます。
アジャイルというと、「計画を立てずに工程を進めること」と捉える人もいるかもしれません。しかしそれは誤解です。アジャイルはその正反対で、むしろ計画を頻繁に立て直すことを前提にした考え方です。
「この施策は思ったように進んでいない」と報告があれば、「じゃあ、どうする?」と次の手を考える。原因追及ではなく、再計画と改善。これを徹底しました。
この方法を取り入れてから、経営ミーティングが次のアクションを決めて動ける会議になりました。意思決定が早く、軽くなったと感じます。
この方法のもうひとつの良い側面は、経営にリズムが生まれるところです。私はこれを「メトロノームのようなリズム」と表現します。
2週間に1度、経営判断タイミングがあるので、「前回の課題が次の週につながる」「次の週には改善策が出る」といった流れが生まれます。ストーリーが連続していくことで、経営全体に“手触り感”が出てきたと感じます。
「チーズバーガーを作る」のか、「新しい料理を作る」のか
米国から輸入されたPDCAの概念が浸透して以降、「きっちりと計画を立てる」「計画通りにやる」ことが重要視されてきました。
しかし、もともと日本のものづくりの現場では、アジャイル的な考え方が根づいていたと感じます。たとえば、トヨタのカンバン方式は、「計画通りにやる」の対極にある考え方です。
横河デジタルで取り入れたアジャイルでは、「Observe(観察)」「Orient(判断)」「Decide(決定)」「Act(行動)」のOODAサイクルを回します。変化を観察し、即座に対応する。もともと日本人が得意としていたこの感覚を、経営の枠組みにもう一度取り戻す。それが、アジャイル経営の意義だと感じています。
もちろん、すべての場面でアジャイルがフィットするとは考えません。私はよく、「チーズバーガーを作るのか、新しいメニューを作るのか」という比喩で自分の仕事について話をします。
去年と同じことを繰り返す業務なら、従来のようなウォーターフォール型(要件定義、設計、実装、テストなどの工程を順序立てて一つずつ完了させるか手法)で構いません。手順も結果も明確なので、むしろウォーターフォール型のほうが安定します。
しかし、新しいことに挑戦する場合は、計画時には洗い出せない未知の要素と対峙しなくてはなりません。未知の領域では、試して、失敗して、学んで、修正する。そのサイクルの速さこそが競争力になります。その場合は、アジャイル的手法がフィットする。
横河デジタルの中にもウォーターフォール型が合う事業もあれば、「新しいメニューを作る」事業もあります。新規事業や新しい顧客体験に取り組む場合は、「計画を変える勇気」と「変化を前提にする計画」が必要だと強く感じています。
加えて、アジャイル開発やアジャイル経営を推進するには、その方法を実現できる技術力も重要です。計画が変更するたびに開発が止まってしまう設計では、アジャイル開発は進まないからです。
そこで横河デジタルでは、ソフトウェア開発部隊にブルーロックバッジ制度という認定制度を導入しました。これは、設計力やデザインパターンの理解度を認定するものです。モジュール単位で柔軟に開発を進められる技術を持つ人にバッジを授与し、アジャイル開発に対応できる人材の育成を進めています。現在、ブルーロックバッジの保有者は4名。現在10名以上がバッジ取得を目指しています。

計画を立て直し続ける「アジャイル思考」を経営にも
Profile
横河デジタル株式会社 代表取締役社長
1996年4月にマイクロソフト入社。機械学習アプリケーションの開発等に携わる。2007年10月横河電機入社。プラントを含む製造現場へのAIの開発、適用、製品化等を手掛ける。強化学習(アルゴリズム FKDPP)の開発者のひとり。2022年7月より横河デジタル株式会社代表取締役社長。2025年4月より横河電機株式会社執行役。博士(理学)。