「見える化」の先へ——ITとOTの統合で現場データを経営判断につなぐ

DX推進の柱の一つがデータの利活用です。製造現場では設備や工程データの収集・可視化が進みました。一方で、「収集したデータを経営判断に生かせない」「部門ごとにデータが分断され、全体最適につながらない」といった課題を抱える企業も少なくありません。次の一手として求められるのが、ITとOTの統合です。現場データを経営の意思決定に反映させるためには何が必要なのか。数多くの現場を支援してきた横河デジタルの3氏が、コンサルティング(新堂)、データ収集(大島)、データ利活用(澤田)それぞれの立場からその知見を語ります。

──製造業のデータ活用に対するニーズは変化しているのでしょうか。

新堂 以前は現場の状況をどう捉えるかというご相談が中心でした。しかし近年のDXの流れの中で、現場から経営まで一体となった取り組みが求められるようになり、経営陣は経営指標をもとに、現場は現場の実情に即してデータを見たいという、両者をつなぐニーズへの関心が高まっています。もはやデータを集めること自体ではなく、経営と現場をつなぐ活用が求められる段階に入ったといえます。

──現場のデータを経営の意思決定につなげる難しさは、どこにありますか。

新堂 現場が必要とするのは、原料や設備、工程、温度、圧力など、ものづくりを再現するためのデータです。一方、経営層が求めるのはPQCDS(生産性・品質・価格・納期・安全性)といった経営指標です。
多くの企業では、この二つが十分につながっていないのが実情です。経営が判断材料として見たい指標と、現場が蓄積しているデータとの関係が整理されていないため、膨大なデータがあっても経営に生かせない状況が生まれています。だからこそ鍵になるのが、ITとOTを統合し、現場と経営が共通のデータを、それぞれの目的に応じて活用できる基盤を整備することです。

──ITとOTを統合すると、製造現場はどのような変化がもたらされますか。

澤田 品質不良の原因は、一つの工程だけを見てもわからないケースが多く見受けられます。製品が複雑になるほど工程は増え、A工程、B工程、C工程を経て最終検査で不良となった場合、従来はどこに原因があるのかを特定するまでに多くの時間がかかっていました。
しかし、工程を横断してデータを統合することで、異常が発生したポイントを客観的に把握できるようになります。原因が明確になれば改善活動を迅速に回すことができ、継続的な品質向上に寄与します。

大島 品質不良の要因は設備だけとは限りません。前工程や原材料など、担当する装置より手前の要因が関わっていることも珍しくありません。そのため、設備データだけではなく、原材料がどこで製造され、どのような経路で工場へ届いたのかまで含めてデータを追跡する視点が求められます。

澤田 そこがITとOT統合の難しいところでもあります。以前は一つの製品、一つのソリューションで解決できることが多くありました。しかし現在は製品も製造プロセスも多様化し、開発から製造まで企業ごとに最適な仕組みが異なります。
だからこそ、お客様の課題を丁寧に整理し、それぞれに最適なデータ基盤を設計することが求められます。YOKOGAWAは長年製造業に携わり、OTを深く理解しているからこそ、最適なIT活用を提案できる点が強みです。製造の実態に即したデータ基盤を構築し、現場から経営まで一気通貫で変革に伴走できる点に、私たちの真価があります。

大島 お客様自身は組織や担当領域が決まっているため、工程や部門を横断した原因追究は容易ではありません。第三者の立場で全体を俯瞰しながら分析し、課題を整理していくことも、コンサルティングが担う役割です。

データ品質と部門横断がデータ活用の成否を分ける

──データ基盤を構築する上で、とくに重視しているポイントを教えてください。

大島 まず大切なのは、データの品質です。分析結果は元となるデータの精度に大きく左右されます。例えば、システムごとに時刻がわずかにずれているだけでも、工程間の因果関係を誤って判断してしまう可能性があります。正確な現場データを収集・管理することが、データ活用の出発点です。

澤田 一方で欠かせないのが、部門や業務が交わる部分のデータを統合することです。個々の工程は改善できても、部署間の受け渡しや調整には依然として人手が介在しています。こうした領域をデジタル化し、AIも活用しながら改善することで、生産性向上の余地は大きく広がります。

──現場ではデータ収集の負担が増えるという声もあります。どのように取り組めばよいのでしょうか。

大島 現場には新たな作業をお願いする場面もあります。そのため、「なぜこのデータを集めるのか」「集めることでどのような成果につながるのか」を現場の皆さんに実感していただくことが出発点になります。
私たちはOTの現場を熟知しているからこそ、経営目線だけでなく現場固有の課題解決に寄り添えます。経営の意思決定を両立させて初めて、データ活用を定着させていくことができるのです。

──データを統合することで、これまで見えなかった課題が見つかることもありますか。

澤田 はい、実際に経験しています。例えば、原材料の受け入れ時には品質検査を実施し、データ上に異常は見られませんでした。それにもかかわらず品質にばらつきが生じたため調査したところ、原因は意外にも原材料を製造する工場が変更されていたことでした。
設備データだけ、あるいは品質データだけでは、見えてこない領域です。工程や調達、品質など異なるデータを統合して初めて、真の原因を分析できるのです。今後はこうした想定外の変化に迅速に対応できる仕組みづくりが、ますます重要になってきます。

大島 データ活用によって最も大きく変わるのは、原因究明のスピードと客観性です。これまではベテランの経験や勘に頼る場面が目立ちました。しかしデータがあれば、「なぜこの不良が発生したのか」を客観的な根拠を持って説明できます。調査時間が大幅に短縮されるだけでなく、経験の浅い担当者でも同じ視点で分析できるようになります。属人的だったノウハウを組織の知見として蓄積できることは、技術伝承という意味においても大きな効果があります。

ITとOTの統合がもたらす業務改革

──実際にデータを統合した企業から、どのような反応がありますか。

大島 長年わからなかった原因が見えるようになったという声を多数いただいています。中には、導入当日に課題が解決したというお客様もいらっしゃいました。データをつなぎ、可視化するだけでも、大きな改善を生むことが多くあります。
一方で、データ活用基盤は導入して終わりではありません。人の異動や世代交代が進む中で、システムを継続的に活用するためには、操作教育や運用教育も欠かせません。使い続けられる仕組みまで含めて整備することがポイントです。

──ITとOTの統合は、単なるシステムをつなぐだけの連携ではないということですね。

澤田 その通りです。ITとOTの統合の本質は、システムをつなぐことではなく、業務改革にあります。
データを可視化するだけでは経営は変わりません。肝心なのは、そのデータをもとに設備投資や生産計画、人員配置、設備保全などの経営判断を行い、その判断を現場が迅速に実行できることです。つまり、ITとOTの統合は経営判断を支える情報基盤であり、判断から実行、改善までのサイクルを回し続けるための仕組みです。

(↓)ITとOTのデータを統合することで、経営判断につながる情報へ
分散したデータを経営判断に活用できる形に統合し、属人化や状況把握の遅れといった経営課題の解消を図る

現場と経営の共通言語がスマート工場を支える

──2030年に向けた工場のスマート化を見据え、製造業にとって最も重要なことを教えてください。

新堂 鍵になるのは、データを人と人をつなぐ共通言語にすることです。現場と経営、それぞれの立場の人が同じデータを基に対話し、判断できる環境を整えることが、スマート工場を支える基盤となります。

大島 集めたデータを、意思決定に役立つ情報へ変換していくことです。現場と経営が同じ判断材料を見て、同じ方向を向ける状態こそが、これからの工場の理想像ではないでしょうか。

澤田 AIやITの活用が進んでも、最後に改善を実行するのは現場です。だからこそ、現場の改善活動が経営に反映され、自分たちの取り組みが会社の成長につながっていると実感できることが大切です。
ものづくりは今後さらに複雑化していきます。その中で競争力を高めるには、現場と経営をデータで結び、判断と実行を素早く繰り返せる企業になることが不可欠です。ITとOTの統合は、その実現を支える確かな基盤になると考えています。

製造業のDXを一気通貫で支援。横河デジタルのコンサルティング・インテグレーション

コンサルティング担当
コンサルティング事業本部
SCM&経営DXコンサルティング部
シニアマネージャー
新堂陽平 Yohei Shindo

「変化に追従するものづくりの実現」をコンセプトに活動。省エネから領域を拡大し、「ものづくりのスペシャリスト」として、製造現場に改善方法論を根付かせるコンサルティング業務から、それを支えるインフラ構築まで、幅広く対応。

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データ収集担当
コンサルティング事業本部
情報インフラソリューション部
部長
大島敦夫 Atsuo Ooshima

産業データ活用基盤(PIMS)を専門とし、構想策定からシステム導入・活用定着までを支援。製造現場のデータ活用高度化を通じて、お客様のDX推進に取り組む。

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データ利活用担当
コンサルティング事業本部
クラウドソリューション部
ディレクター
澤田圭介 Keisuke Sawada

生産制御システムのオペレーションやエンジニアリング機能の開発、無線エッジコンピュータを活用した映像ソリューションのシステム提案・導入に携わった経験を生かし、お客様課題を解決するDXソリューションの開発と提案活動に従事。

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製造業のDXでは、課題の整理からデータ収集、分析、システム構築、さらにはデータ活用までを一貫して設計することが重要です。横河デジタルは、長年にわたり製造現場で培ってきた知見をもとに、現場と経営の双方を見据えたコンサルティングを提供しています。

まずは現場や経営の課題を整理し、中長期を見据えたデータ活用の構想を策定します。その上で、アプリケーションやデータ統合基盤を段階的に構築。システムを一度に導入するのではなく、スモールスタート・クイックウィンを基本とし、早期に成果を実感できるアプローチを重視しています。また、DXは経営主導だけで進められるものではなく、現場の理解と協力が欠かせません。横河デジタルでは、要件定義からデータ収集、システム構築まで、各分野の専門家が連携して支援。基盤の構築だけで終わらせず、そのデータを経営判断や現場改善に生かすところまで、一貫して伴走します。

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